岡谷会


生きることを好きになる子育ての法則
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(4)子どもが本音を話してくれる”幸せ”

 今回は、「子どもが不登校になってしまうかも」とカウンセリングに通っていた母親の話をします。

【例】中学一年生のAくん。毎朝、起きてから居間でぼーっとしている時聞が長い。うながさないと、食事や着替えをしようとしない。宿題は、毎晩のように母親がつきっきりでやらせている。翌日の時間割の準備も母親がしている。

 Aくんは一人っ子です。母親は毎朝、Aくんを送り出すために「朝食を食べたら、5分だけゲームをしてもいいから」などと言い、なんとか機嫌をとりながら、必死で学校へ送り出しているとのことでした。
 話を聞いた後、私はいつも通りの方法を提案しました。それは、@Aくんに対して「〜しなさい」「〜は、もうできたの?」などの、行動を指示したり確認する言葉をできるだけ控えること。Aそのかわり「〜をどう思う?」「〜は楽しいね」など、考えや思いを伝え合う言葉を使うの二つです。

「自分で決めること」が大事

 すると母親は「もし私がうながさなければ、着替えも食事もしないと思います。毎朝遅刻するか、もしかしたら不登校になるかもしれない」と心配されました。私は「指示されてなんとか通えていることよりも、行くか行かないかも含めてAくんが自分で決めることのほうが、ずっと大事です」と伝えました。
 宿題も時間割の準備も同じことです。母親につきっきりで見張られて宿題をやるよりも、「やるか、やらないか」「いつやるか」を自分で決めることのほうが大切です。宿題をやらなかった場合に不安を感じることや、その不安をAくん自身が「自分の問題」としてどう味わうかという経験のほうが、ずっと大事なのです。
 そのように話すと、母親は「今までこれほど干渉してきたのに急に一切をやめてしまったら、Aは『自分は親から見捨てられた』と思わないだろうか」と言いました。うるさく口や手を出してきた親ほど、それらを控えるよう提案されると、「これまでと180度転換した接し方をするように言われた」と感じるようです。干渉し過ぎるか、一切無視(放任)するか、100か0かのように受けとめます。「では、子どものことを一切無視したらいいのでしょうか?」と言う親もいます。
 もちろん無視するのはよくありません。手出しや口出しするのを控えて「関心を持って見守る」のです。子どもに対しては「いろいろと親が口を出すのはよくないとカウンセリングで聞いたから、これからは小言を控えるね。でもあなたのことを見捨てるということではないからね」と、はっきり伝えるといいでしょう。

【例】母親は小言を控えることを宣言して、Aくんを見守りはじめた。Aくんは、はじめのうちは少し遅刻したり、提出物を忘れたりしていたが、ほんの数日で、言われなくても自分で動くようになった。

 家の中で元気がなかったAくんに、元気が戻ってきました。すると、友人のことや学校のことを母親によく話すようになりました。ただ母親は、「担任のことを名字で呼ぴ捨てにしている」「『本当は食事の前に手なんか洗ってないよ−−ずっとそんなのやってない!』なんてことを得意そうに言う」と、嘆いていました。
 Aくんは、母親が変わってきたことを実感しています。だから、これまで言わなかったような話をするようになったのです。今までは「叱られる」「聞いてもらえないのでは?」と思って言えなかった本音が、やっと出せるようになったということです。私は母親に「子どもに本当のことを話してもらえる親になれたんだと、誇りに思えばよいのですよ」と伝えました。
 母親がAくんに対する態度を変えて約一カ月がたったころ、次のようなやりとりがありました。

【例】 夕食を作っている母親に近づいてきたAくんは、突然話しはじめた。「僕が幼稚園の頃、お母さんは僕にひどいこと言ったの覚えてる? 『あんたみたいな子はお母さんの子どもじゃないから、どこにでも出て行き!』って言ったんやで。僕は小さかったからどこも行くところがないし、すごくつらかったんやで」と。Aくんは、涙を流していた。母親は突然そのようなことを言われてすごく驚いた。それでも「ごめんな、そんなひどいこと言ったんやな。お母さんが悪かった。つらかったやろな。本当にごめんな」と何度も謝った。Aくんを抱きしめながら謝るうちに、母親もぼろぼろ涙をこぼした。

 面接でこの話をしているときも、母親は涙を流しました。私が「そのとき、どんな気持ちでしたか?」とたずねると、母親は晴れ晴れとした表情で「謝りながら、私は嬉しさで一杯でした。この子がやっと私を許してくれる、言い損なって『ごめんなさい』を伝えるチャンスをAがあたえてくれた。『この子が自分の子どもであってくれてよかった』と心の底から思いました」と話されました。

信頼されていることを誇りに

 どの親も「子どものために」と一生懸命に毎日を生きています。叱るのだって子どものためです。子どもだって心の底では、そのことはわかっています。お互いにわかっている状況であっても、Aくんのように「幼い頃に感じてずっと忘れていた親への不満を、親に伝えることができたこと、そして親がそのことを正面から受けとめてくれた」ということは、親子の絆を深めるとても幸せな体験だったと思います。
 「子どもの本音を聞けるようになること」ー−それは親にとって大変なことですが、得られる幸せも非常に大きいものだと、私はいつも思います。子育てに悪戦苦闘する親たち(私もまさにその一人です)を私は心から応援しております。

佐保川診療所 所長 田中茂樹

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