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2002年8月 NO.130

 じん肺 世界最古の職業病
 かかってしまったら
 もとの肺には戻らないのだから

池上 あずさ
熊本・くわずみ病院医師 

じん肺は非常に古くからある職業病です。古代エジプトのミイラにも見られ、日本では江戸時代の文書に佐渡の金山で「金を掘る人の病気」として記載されています。特定の粉じんを大量に長期間吸い続けることによって、肺の組織が反応しておきる病気です。その粉じんの量は、通常の生活や環境では絶対に吸い込めないほど、けた違いに多いものです。
 このように職業性の病気(労災職業病)であることが大きな特徴です。
 じん肺をおこす可能性のある職業は、トンネル工事、炭坑、造船がもっとも多く、ほかに採石、各種製造業、建築業などがあります。原因となる粉じんは、遊離珪酸、石綿、タルク、鉄など鉱物性のものがほとんどですが、畳表などに使われるい草のようなものもあります。
 同じ現場で同じように仕事をしていても、肺の状態が同じになるわけではありません。レントゲン写真でみても、一人ひとり違います。
 肺の反応のしかたには個人差がありますし、粉じんの吸い方の差や、いくつかの粉じんが複合している場合もあり、結果として肺組織の状態は人によってさまぎまなのです。

最も多いじん肺の特徴

 ここでは、炭坑やトンネルなどでおこる最も多いじん肺について説明していきたいと思います。
 じん肺をレントゲンで見るといわゆる珪肺(写真1)と、アスベスト肺(写真2)に大きく分けられます。
 珪肺は、高濃度の遊離珪酸の吸入によって発症し、適切な防塵装置がない現場で働いていた方に多く見られます。このつぶつぶの影を粒状影と呼びますが、顕微鏡で見ると玉ネギのような形をした珪肺結節(写真3)と呼ばれる構造をしています。
 建築現場などで使われるアスベスト(石綿)によっておこるアスベスト肺は、線状や網状の影と、胸膜の変化が主体となります。
●「じん肺法」で医療、健康管理
 じん肺は労災職業病でもあるため「じん肺法」という法律で、重症度の規定から管理法までが細かく決められています。
 まず、レントゲン写真でじん肺の影が少ないか多いかで、第1型から第4型に分類されます(表1)。レントゲン写真の分類と肺機能検査の結果から管理1から管理4までの管理区分が決まります(表2)。
 現在、この管理区分が患者さんの医療保障や休業補償を決める重要な基本事項になっています。

なぜ減らない?じん肺患者

 九州はかつて良質な石炭の産出地でした。また全国のトンネル工事などへ出稼ぎにいく労働者も多く、炭坑閉鎖のあと、トンネル現場を渡り歩いた方も多数おられます。
 78年(昭和53)のじん肺法制定と最近の防塵対策の結果、新たなじん肺患者さんの発生は統計上は減少しています。けれども、私たちの病院に新しくこられるじん肺患者さんは決して減ってはいません。一つにはじん肺がよくなることなく徐々に進行していく病気であるためです。また粉じん作業でじん肺になることを知らなくて、離職して具合が悪くなってはじめて、検診を受ける方もおられるからです。
 地域によってはじん肺に対する偏見もあり、受診した先の医療機関がじん肺を診ようとしない場合があります。さらにじん肺とわかっていても、じん肺法を知らずに患者さんを放置している場合もあるようです。
●95年から掘り起こし検診
 当院では84年からじん肺、振動病の管理をはじめました。そしてじん肺と知らずに苦しんでいる患者さんの救済が必要と考え、95年から掘り起こし検診をしています。
 表3は1年ごとの新規申請者数と新規労災認定者数の変化です。
 これまでに160人ほどの患者さんが労災認定されましたが、ここ2〜3年は、申請してもじん肺と認められない、認定されるまでに半年以上かかるという例が増えています。
●呼吸を奪う呼吸器の合併症
 じん肺には、じん肺があるために引きおこされる多くの合併症があります。じん肺のうえに、感染症、気胸、喘息、肺がんなど呼吸器関連の合併症が重なると呼吸ができなくなることがあり、非常に重要です。
 現在、労災に認められているじん肺の合併症としては、@続発性気管支炎、A続発性気管支拡張症、B続発性気胸、C結核、D結核性胸膜炎の5つがあります。じん肺の影がありこれらの合併症がある場合は、療養が必要と見なされ、労災認定されます。認定されれば医療保障および生活の保障としての休業補償を得ることができるようになります。
 しかし肺がんは、じん肺の合併症とは認められていません。命を縮める病気なのに、合併症とは認められていない病気も数多くあります。

じん肺患者さんの実際

 当院での実際のじん肺患者さんについて説明します。
●トンネル作業を15年以上
Aさん 15年以上トンネル作業などに従事。管理4。昭和30〜40年代の作業環境はきわめて悪く、掘削で吸い込む粉じんの量も莫大なものでした。じん肺になった結果、肺のあちこちにのう胞性の変化ができて破れやすくなり、何度も肺に穴があき(気胸)、手術で塞ぎました。
 その後、呼吸状態が悪化して在宅酸素療法を導入。「自分だけが生き残った」が口癖でしたが、入院期間が徐々に増え、感染をくり返した末に呼吸不全で亡くなりました。
●23年間ダムで。現在無事通院
Bさん ダムなどで23年間働く。管理4。やはり気胸を発症し手術しましたが、この7年間は再発せずに無事定期通院をしています。慢性心房細動もあり、呼吸不全だけでなく心不全にも注意が必要です。レントゲンにあるかたまりの影は、大陰影という粒状影が集まってできた影でじん肺第4型の特徴です(写真4)。
●炭坑で20年間。肺がん合併
Cさん 炭坑で約20年間働く。来院したときすでに肺がんを合併していました。管理2、続発性気管支炎に認定されましたが、手術後1年で肺がんを再発、1年後に亡くなりました。直接死因が肺がんだったので労災による死亡保障は得られませんでした。治療も肺がんに関わるものは、すべて労災による医療保障を受けることはできませんでした。何のための労災かと、とても残念でした。
 責任感の強い方で、同じ炭坑で働いていた同僚にじん肺のことを知らせなければ、といつも話しておられました。CT写真は肺腺がんの再発後のものです(写真5)。
●管理3以上は肺がんも労災で
Dさん トンネル作業に15年従事。管理3。1年前の定期検査で径約2cmの扁平上皮がんが見つかり手術しましたが、じん肺で肺機能が低下しているためがんを切除しきることができず、最近再発しました。
 Dさんも手術を受けたときは、労災ではなく国保で治療しました。今年になって、管理3以上であれば、肺がんも治療は労災でできる、という通達がだされ、ほっとしました。
●トンネル作業28年。肺結核に
Eさん トンネル作業に28年従事。8年前に肺結核にかかりました。結核の治療を約1年つづけた頃からちょっと動くとゼーゼーするようになりいまでは週2〜3回、外来での点滴が必要です。喘息発作で入退院もくり返しています。去年再申請して管理3から管理4に変わりました。一寸先は闇のようなもうもうとした粉じんのなかで仕事をしたそうです。じん肺についての教育的指導はなく、マスクをするとかえって息苦しかったと話してくれました。
●結核菌が全身に回って
Fさん トンネル作業を約10年間。管理3。5年前に粟粒結核という血流に乗って転移する結核にかかり、肝臓にも結核菌が入り込んでしまいました。結核は薬で治り、いまは外来通院中です。粟粒結核は淡い粒状の影が散るので、じん肺に合併した場合、もともとの影との区別がつきにくく通常のレントゲン写真だけで診断するのは困難です。胸部CTが参考になります(写真6)。

肺がんを合併症に認めるべき

 じん肺はこのようにいろいろな呼吸器疾患と密接に関連しあっています。じん肺があるために他のさまざまな病気が引き起こされるのです。
 しかも、どの合併症も、常に呼吸不全の危機があるので、じん肺患者さんの不安は非常に大きいのです。
 じん肺患者さんの過去3年間の入院理由を見てみると、肺炎、喘息発作、呼吸不全増悪などが多く、次にがんが目立ちます(表4)。
 東京社会医学研究所が行なった「じん肺患者の死因についての検討」という調査によると、肺がんの死亡率がじん肺のない人と比べて3.3倍も高いことが報告されました。肺がんをじん肺の合併症として認め、医療保障も休業補償もきちんとしてほしいと思います。

たばこも一種の粉じん

 じん肺は労働災害です。つまりそれは、人の力で防ぐことができた、ということです。
 じん肺は、いったんかかったら、もとの肺には戻りません。通院中のほとんどのじん肺患者さんは、息切れを強く訴えますが、息切れや呼吸困難を治す治療法はありません。
 従って現在、粉じん作業に従事している方は、粉じんを吸うとじん肺を引きおこすことを十分認識し、作業時間をきちんと守り、マスクや有効な呼吸保護具を使用したり、管理区分に従った配置転換の指示を遵守しましょう。
 また管理手帳を持つ持たないにかかわらず粉じん作業に従事していて息切れ、咳、痰などの症状が出るようなら早急に検診を受けましょう。
 さらに、最も重要なことは、もし喫煙しているのであれば一刻も早く禁煙すべきです。たばこも一種の粉じんです。粉じんによる肺組織の反応は、喫煙などによる肺疾患とその発生の一部を共有しているともいわれます。これ以上の粉じん吸入はぜひとも避けるべきです。

謝れ、償え、なくせじん肺

 現在、長年にわたり各地のトンネル工事に従事していたじん肺患者さんたちが損害賠償を請求した「全国トンネルじん肺訴訟」が、各地で提起されています。「謝れ、償え、なくせじん肺」をスローガンに、健康への損害賠償とじん肺根絶を求めたものです。
 東京・熊本ではおよそ3年半で原告勝利の和解ができました。早期決着の根底には、企業責任が全面的に認められたことがあります。
 95年にはILO、WHOがじん肺根絶のための国際計画を出しました。世界からじん肺を根絶させるための国際協力を確立し、2015年までにじん肺を根絶することを目標としています。日本政府もその計画に従う義務があります。
 じん肺はじめ、あらゆる肺疾患が、労災や大気汚染、喫煙など、原因物質を吸いこんだためにおこつていることがわかってきています。その意味で、じん肺から学ぶことは非常にたくさんあります。じん肺をなくす対策に真摯にとりくむことが何より重要でしょう。


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