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2002年9月 NO.131

 「がんとの新しいたたかい」
 私はこうして
 「切らずにがん細胞と共生する」
 道を選びました。

 「がんです」と告げられたら、落ち込むのがふつうかもしれません。でも、勇気をもって情報を集め、学びながら、がんに立ち向かった患者がいます。行動的で、「闘病」のイメージを変えるような、「がんとの新しいたたかい」を始めた松尾泉さん(75歳)の生き方は −。

 私の食道がんが発見されたのは昨年8月。循環器の慢性病患者として治療を受けていた東京民医連の代々木病院ででした。ここでは「慢性病患者の全身管理・生涯管理」のための定期検診をしており、その検診で発見されたのです。約20ミリの悪性腫瘍が粘膜下層に達しているが、筋肉層やリンパ腺には転移していない早期がんでした。表層部なら内視鏡で切除できるが、下層部に達していたら通常は手術で食道を全摘出するとのことでした。
 がんを宣告された私は、がんについて、食道がん手術の大変さについて、まったく無知。「早期がんだから手術して病変部を摘出すれば完治する」と単純に考え、手術への障害を少しでも除こうと、50年親しんだ喫煙・飲酒をきっぱり断ちました。「命には代えられない」、あさましい執念のなせるわざでしょうか。
 代々木病院では、持病の心臓病(狭心症)が手術に耐えられるか慎重に検査、検討されました。手術以外の治療法についても、臓器の形状、機能を残したまま治療する「抗ガン剤と放射線による化学治療」について説明されました。あらゆる角度からの検査・検討と説明のくり返しは3ヵ月に及びました。

「敷かれたレールを走る」ような

 最終的に抗がん剤と放射線による治療態勢を完備している国立がんセンター病院での受診をすすめられました。
 同病院の消化器内科医師の説明を聞くと、食道がんの化学治療の進歩は著しく「成功率は95%、治療後の5年生存率は75%」といいます。私は治療の方法、効果、副作用など質問しましたが、「説明すると30分以上かかる。詳しくは入院時に説明する」とのことで、ベッドの空き待ちが3週間以上あるので入院予約をするよう指示されました。
 こうして、国立がんセンター病院に入院。抗がん剤の点滴による投与と放射線の体外照射による化学治療は、昨年11月から、1サイクル約20日ほどの2サイクルに分けて行われました。治療の結果が判明したのが、ことし2月21日です。
 担当の内科医師は「治療で病変部が一時縮小したが、化学治療でもきかないがん細胞が残存する結果になった。食道の全摘出を行なうしかない」と宣告。
 バトンタッチされた外科医師は「手術は必然である」と説いたあと、手術の方法として「頸部、胸部、腹部の3ヵ所を切開し、食道の全部と胃の一部および食道周辺のリンパ節をすべて摘出、胃をのばして頸部に接続する」と説明しました。
 私は生かじりの知識でいろいろ“質問しましたが、外科医師は「術中、術後30日以内の死亡率は2%程度」「当院では年間120件もの手術をして(熟達して)おり、通常7時間くらいの手術ですむ」「このまま放置した場合の余命叩は1年くらい」とのべ、「必要な検査を直ちに受け、入院予約をすること」を指示しました。
 有無を言わさず手術へのレールに乗せられているようで、少し恐ろしくなりました。私は、手術に対する不安とほかの治療法を模索したい気持ちから、「手術については留保し、しばらく考えたい」ことを告げました。これは、私が医師の指示に逆らった最初のできごとでした。
 私の本当の意味での「がんとのたたかい」は、この時から始まったのです。

自分に最適な治療法をもとめて

 私はがん患者になって初めて、テレビ・ラジオ、新聞・雑誌・本、広告などに氾濫する「がんの話」の多さに驚きました。身の回りにがん患者やがん治療の経験者が多いことも発見でした。
 こうしたメディアや体験者の話に耳目を傾けていたころ、相談した代々木病院の主治医から「セカンドオピニオンの利用(「第二の医師の意見」をきき、治療法の選択、決定に役立てること)」を勧められ、多くの有識者や経験者から多くのことを学びました。
 「しんぶん赤旗」連載「EBM(科学的根拠に基づく医療)に沿ったがん治療法を考える」の食道がん特集でみた東京大学病院の柴田幸司医師(放射線科)の話は鮮烈でした。食道がんは「命がけ」の手術であること、合併症の苦しみ、術死率の高さなどを指摘し、「食道がんと診断されたら、主治医が提示する治療法の長所と短所、ほかの治療法の可能性についてよく聞くとともに、セカンドオピニオンを利用するなどして適切な判断を行なう努力が大切」と強調しておられたのです。
 昨年11月に広島で開かれた日本癌治療学会総会では、こんな話が披露されています。「日本のがん治療がともすると希薄な根拠のもとに、病院、グループ、医師ごとに、思い思いに行なわれてきた嫌いがある」のに比べ、欧米では「がんの臓器ごとに、臨床実験で得られた科学的根拠に基づいた治療スタンダードが作られ、どの病院に行っても現時点で最高の治療を受けられるシステムが確立している」、アメリカのMDアンダーソンがんセンターでは「一人の患者に対し外科医、腫瘍内科医、腫瘍放射線科医、病理医、臨床薬剤師、腫瘍看護婦などによるチーム医療が行なわれている」と。
 がん治療をトータルにコーディネートする事業を最近設立し、がん治療のセカンドオピニオンの役割を果たしている土屋繁裕医師は、癌研附属病院で乳腺、消化器、呼吸器がんの外科医として、手術を担当してこられた方です。
 この方も手術万能主義を批判し、「臓器ごとのがんの進行度別にどこまで切るべきか、放射線や抗がん剤の方が有効か」などを、「生活の質」との関わりで見直すべきと主張。「食道がんを手術で治す時代は終わった」と大胆に主張しています。

標準治療薬に保険適用の運動にも

 「日本でも欧米のがん治療薬の早期認可を」という運動をテレビでみて関心をもち、テレビ局に問い合わせて運動団体の所在を確かめ、直接照会しました。
 欧米では90年代、次つぎに画期的な抗がん剤が開発され、薬によるがんの治療は急速に発展しました。欧米では、数多くの臨床試験によって科学的根拠が十分にあるこうした抗がん剤を評価し、標準治療薬として使用を推奨しています。その数は180種類(一部重複薬剤を含む)に及ぶともいわれています。 ところがわが国では、がん患者が一刻も早くこの標準治療薬の保険通用を切望しているのに、厚生労働省は「欧米の製薬会社からの申請がないので承認できない」との態度です。がん患者団体が5万、10万人の請願署名を厚生労働省や国会に提出し、一部が採択されています。
 これらの団体は、最近「日本がん患者団体協議会」を結成して統一した運動に乗り出しています。私は情報の入手と運動参加のために入会手続きをしました。

私が到達したこたえは

 この間、代々木病院の内科・外科の主治医に何度も相談しました。東大の柴田医師や元癌研病院の土屋医師にも意見を聞きました。食道がん手術の体験者やがんの化学治療受診中の患者とも面談しました。本も読みました。最も大切なこととして、私の闘病生活を支えてくれる妻や子どもたちの意見も聞きました。
 こうして、短い時間で多くのことを学んだ私がたどりついた結論は、「手術をせず、がんと共生して、人間らしく質の高い余命を生きる」ことでした。
 過剰な拡大摘出手術は効果に疑問がありリスクも多いと判断。たとえ手術が成功しても、合併症や再発の危険が高く、術後の「生活の質」の低下が著しいと考えたからです。
 手術によらない以上、がん細胞との共生はやむを得ません。手術したとしても再発の危険性は否定できないわけだし、結局「がんと共生して、残る生命を人間らしく生き生きと充実した生活としておくる」道を選びました。もしも、がん細胞が活発になって病勢が進行し、私の生きる力を上回った場合は、「終末期の緩和医療(ホスピスケア)」設備も次第にととのってきているし、最終的には在宅ケアと並行して施設入所も考えています。

がんが消えていた!?

 後日談になりますが、その後、土屋病院のがんドックを受診し、内視鏡で、治療後の病変部の組織検査をしました。結果は「良性」!東大の柴田医師の「放射線治療の結果は時間がたって現れるのであまり早く結論づけないように」というアドバイスが的中です。私は 「とりあえず、自分の判断がまちがっていなかった」と知ることになりました。
 さて − この間、代々木病院の存在は大きなものでした。内科・外科主治医をはじめスタッフの親身の診療や看護、アドバイスには心から感謝しています。
 国立がんセンター病院は、たしかに高度医療の設備・医師・技術者態勢を備えた日本の先端医療機関です。快適な療養環境の中で、懸命な治療が行われたと思っています。しかし、問題点も感じました。インフォームドコンセントが形式的に整っていますが、マニュアル化された治療・方法で過剰な拡大手術に固執するなど、患者の人権を尊重する観点が希薄だと感じます。
 「患者の人権を尊重する医療」「患者のための良い医療」をめざす民医連医療との違いを見る感じがしました。
 しかし、国立病院は「高機能の設備、機能をもつ国民の財産」です。民医連など民間一般病院との医療連携や、民主的な発展を望みたいと思います。
 がんを早期に発見しこのような貴重な体験をさせてくれた民医連医療に改めて感謝するとともに、科学的根拠に基づく標準医療、在宅や施設での終末緩和医療など、「がん治療における民医連医療の今後の発展」を心から願うものです。

写真・尾辻弥寿雄


松尾さんの「がんのたたかい」を
医師から見れば

土屋繁裕さんに聞く

 松尾さんのような努力は、医師としても大歓迎です。医療は患者のためにある。とくにがん治療は命を買うわけで、一生で一番高い買い物。自動車や家を買うのに一発で買う人はないように、いろいろ調べて、知って、患者が「この治療法でいい」と納得することが大事なのです。
 松尾さんはいろんな医師の話をきかれた。これは当然のことで、医師は十人十色、治療法もいろいろ。手術をしてダメージを受けた体で「細く長く」生きることを選ぶか、あるいは別の方法で長生きはできないが「太く短く」生きる道を選ぶのか、人それぞれの死生観、人生観にかかわることですから。
 ただ、いろんな医師のところへいくという人は、まだまだ少ない。患者さんは医者に遠慮があって、「ほかの先生の話もきいてみたい」 の一言がなかなかいえない。このハードルはベルリンの壁のように高いけれども、ぜひ乗り越えてほしい。言ってみると意外に簡単です。それでいじわるされるようなら、そんな医者こそ早く代えた方が安全ですね。
 松尾さんのように、いろいろがんばって勉強するのはたしかに大変です。というのは、だれしも、がんを知ることは突然なんですね。心の準備がなく、知識も情報もないところであわててしまう。
 しかし、がんはもう決して珍しい病気ではあれりません。50歳過ぎると二人に一人はがんで死ぬのです。みんながんになるのだと、常日ごろから考えて備えておくことをすすめたい。私は小学校中学校で、算数や国語を教えるように、がんを教えるべきだといっています。それくらいがんはもう身近な病気です。知れば逆にこわくなくなりますよ。


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