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中学生と
レストランに行く

 私の住むウィノーナという小さな町に中学校が一つだけ建っている。友人のパティさんはそこで、不登校やその他いろいろな問題を抱える生徒たちをサポートしている。
 彼女は「生徒たちとレストランに行くので、付き添いでいっしょに来てくれない?」と私を誘った。話によると、不登校に悩む生徒たちの話き聞いたあるレストランのオーナーが、生徒たちを元気づけようと全員無料で昼食に招待したいということであった。なかなか粋なことをするではないか。そのレストランは町でも高級で名高く、私でも特別な時でない限り行かないところだ。
 タダ飯という事で二つ返事をした私に、パティさんは「公共マナーとかテーブルマナーを教える良い機会だし、生徒といっしょに楽しんでもらえたら嬉しいわ。とりあえずタパコを吸うとかそういうことをしないように見ててくれるだけでも助かるわー。」と私が来ることを喜んでくれた。
 当日、私を含め4人の付きそいと14人の生徒たちでレストランに向かった.彼らは私より背が高く早熟である。
 彼氏がどうのこうのと話す彼女たちといると、自分が中学生と話している事を忘れそうになる。彼らがどんな悩みを持っているのか私には計り知れないが、その瞳には教室を離れた一人の人間としての開放感がうかがえた。
 私はやんやと騒ぐ生徒たちを落ち着かせ、レストランに入った。
 テーブルマナーとは決して難しいものではない。テーブルにつき、飲み物を注文する。飲み物が来たら次にメインコ−スを頼み、料理を待っている間は会話を楽しむのだ。サラダが運ばれてきたら、ナプキンをひざに敷き、フォークやナイフを使って食べる。スープは間違っても器を持ってすすってはいけない。パイキング式だったら、一人だけで取りに行くのではなく周りを待つ配慮も心がけたい。
 これだけの事だが、14人の生徒といっしょに楽しむことは簡単なことではなかった。一人一人はとてもよい人でも、集団となるとその性質を変えるというのはよくある話だ。途中で立ち歩いたり、ぶつぶつ文句を言って雰囲気を壊したりする生徒、黙って無口に食べる生徒などがいていろいろと落ち着かない。高級レストランでもいっしょに行く人によってこうも変わるものかと思う。
 私は目の前に座っている生徒と話をしていた。誰かの犬が死んだという話から葬式の話となり、「私の祖母が死んだときでっかいオーブンで焼かれてネェ…」と、聞かれてもいないのに日本の火葬の様子を細かく説明し、彼らを震え上げらせた。まさにテーブルマナーにはずれる語題だったと反省する。
 あわただしく食事が終わり、生徒はそれぞれのクラスへ帰った。その後ろ姿を見送りながら、付き添いの4人は一息ついた。
 今日来た生徒のほとんどは、「家族といっしょに座って食べる」という習慣がないとパティさんは言う。きっと1人でハンパーガーやフライドポテトなど簡単なものを食べてい るのだろう。この企画は彼らに何をもたらしたのだろうか。
 「多分、数年もすれぱ彼女たちは麻薬やアルコ−ルに手を出して、変な男に連れさられてレイプされるような思春期を送るのが目に見えるのよ。そういう生徒を前に無力な自分を感じるけど、煩雑な彼らの生活のなかに「ほっ」としてもらえる時間を作ることができれば嬉しいわ」とパティさんは言った。パティさんはこうして生徒にいろいろな憩いの場を提供して彼らと学校をつないでいるのだった。いや、パティさん自身が生徒たちの想いの場と言っていい。
 パティさんは深いため息をついた。そして私たち3人は「生徒たち、嬉しかったと思うよ」とその労をねぎらった。
   (題字・カットとも筆者)


村岡 由美子
*プロフィール*
  1971年大阪生れ。奈良・岡谷病院で看護婦として勤め、1996年にアメリカ人のヒースと結婚し渡米。
 現在は、非営利団体で「家を建てる」ためのボランティアコーディネーターをするなど、あらゆることに挑戦しながら絵日記エッセーをかく。

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